EAO(ヨーロッパインプラント学会)参加報告 木林 博之 | インプラント治療の会「さきがけ」

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EAO(ヨーロッパインプラント学会)参加報告 木林 博之

9月30日~10月3日にかけてモナコ公国にて開催されたEAO(European Association for Osseointegration:ヨーロッパインプラント学会))18th Annual Scientic Meeting(第18回年次学術学会)に参加してきました。

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今回のこの学会のテーマは”Guidelines for the practitioner(インプラント治療医のためのガイドライン)”と題され,インプラント治療における様々なトピックの最新の見解が得られるという期待を抱いて出席してきました。

学会場でまず驚いたのが,日本からの参加者の多さでした。学会関係者から聞いた話ですが,

日本人の参加者数は約200人で,地元フランスの参加者より多かったそうです。モナコで,日本でのインプラント治療の普及を実感しました。

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学会の内容は基礎研究から,実践的な内容まで盛りだくさんでした。まず,初日は10年間の経験からと題し,インプラント治療におけるいくつかの手術術式(上顎洞底挙上術、インプラント埋入と同時に荷重することなど)を再考するセッションが催されました。私が出席したのは,これとは別のセッションでインプラント抜歯即時埋入に関するセッションでした。この術式は,患者様にとっては外科処置の回数が減り,抜歯から修復物が装着される期間が短くなるという大きな利点がありますが,なかなかこの術式の適応となる場合は限られるというのが現在の見解です。まず,その限られた条件で修復した症例を提示して,その有用性についての講演がありました。また,抜歯した後,いかに骨や歯肉の吸収・減少を防ぐかと
いう昨今のトピックに移り,骨移植材料と歯肉移植の有用性についての最新の研究,文献を紹介していました。ほぼ当医院で実践している内容だったので安心しました。

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2日目は、偶発症、特に、上顎洞底挙上術(サイナスリフトソケットリフト:さきがけ用語集)、口腔外の採骨による大規模上顎再建術、インプラント周囲炎、補綴修復物の生体力学的偶発症、軟組織のマネージメントや仮修復の方法とそのタイミングのセッションが行われました。やはりヨーロッパはインプラント発祥の地であるため10年、20年といった長期症例が多く出され,長期症例が多い分、インプラント周囲炎も日本より、研究分野でも臨床分野でもより切実な問題としてかなり大きく取り扱われていました。そしてそのインプラント周囲炎を防ぐためには角化歯肉が有効である、といった発表も見られました。私は,もともと歯周病治療を経てからインプラント治療を行うようになったので,この見解には常々当然のことと考えていました。特に下の奥歯などのインプラント治療では,この角化歯肉がない場合が多く,当医院ではほとんどの場合が,歯肉移植術(FGG:さきがけ用語集)あるいは歯肉の根尖側への移動術が必要になります。私にとっては驚くことですが,日本でインプラント治療を行っている医院では,それらの多くがこれらの術式を行わず,即ち,角化歯肉がない状態でインプラント治療を完了しているようです。この状況を考えると,そのうち日本でもこのインプラント周囲炎が学会で大きなトピックになることが予想されます。

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3日目には、再生医療的な最先端技術のセッションと,歯周病学とインプラント学に関してのセッションが催されました。特に印象的だったのが,最終セッションの歯周病専門医とインプラント専門医を交えて“歯周病学とインプラント学、そのボーダーはどこか?”というテーマで行われたものでした。ヨーロッパもアメリカ,日本と同様に歯周病の病態とその治療法を知らずに,いきなりインプラント治療を行う若手の歯科医が多いというのが実情だそうです。(私の出身の大阪大学でもこの流れを顕著に感じます.これは他の大学でも同じでしょう。また,インプラント専門医として活躍されている某先生も堂々と“歯周病は治らない!”と言っているのを聞いて呆れました。)この結果,歯周病に侵された歯を,歯周外科処置や歯周組織再生療法)などにより残そうとする努力をせずに,“残せるか疑わしい歯は抜歯してインプラント”という危険な風潮を感じます。この考えは世界的な潮流になっていました。このセッションでは,このような流れに対し警鐘を鳴らすもので,歯周病治療を知らずにインプラント治療を行う若手の歯科医に,まず歯周病治療の重要性を伝えなければならないという意味合いを感じました。私も全く同感です。このような“歯周病治療をベースにインプラント治療を考える”という私にとって当たり前のコンセプトは,昨年参加したAO(米国インプラント学会)でも感じたことでした。やはりBack to Basic“基本に帰る”と いうことでしょうか。自分が普段実践している治療コンセプトが,決して間違っていない事を実感した学会であり,非常に多くの収穫がありました。

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インプラント専門医 きばやし歯科医院 木林 博之

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